“ちがい”を豊かさに~共に生きる社会をつくるために~講演録6 | JIN's QUEST

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“ちがい”を豊かさに~共に生きる社会をつくるために~講演録6

   


日本の社会は、一見、物が豊かで平和な世の中です。けれども毎年3万人近い人が自らの命を絶っています。2011(平成23)年までは13年間連続で3万人を超えていました。一昨年は3万人を切ったといっても、東日本大震災で亡くなった方、行方不明の方を含めた数よりも、もっとずっと多い人たちが毎年自ら命を絶っています。

こうして一日過ごしている間にも日本のどこかで100人近い人が自らの命を絶っているというのは、異常な世の中です。そんなことがあっていいはずがありません。もちろんその原因にはさまざまな個人的事情があるとは思いますが、共通しているのは本当に追い詰められている人がいるのに、そのことを知らない、そういう状況について気付かないことがあるという現状です。都会の中でたくさんの人たちが一緒にいても、お互いに挨拶をしないこともあります。

今の社会というのは、たくさんの人たちが一緒にいることはいる、共存してはいるようですが、共には生きていないのではないかと思います。要するに社会の中で、コミュニケーションや思いやり、つながりなどがなくなり、共に生きることのない社会になってしまっている、それが大きな問題ではないかと思います。

では共に生きる社会をつくるためにはどのようにしたら良いのでしょうか。ここで皆さんに一緒考えてほしいと思います。ちょっとスクリーンを見てください。ここに「口」という漢字があります。この口に2本足すと田んぼの「田」になります。今から30秒ほど時間を計りますので、「口」に2本足してできる別の漢字をできるだけたくさん書いてください。相談や質問はなしです。実際にある漢字です。適当につくらないでください。では30秒で、どうぞ。

はい、ストップです。さあ、どうだったでしょうか。10種類以上書けた人、30秒では難しいですかね。では、5種類以上書けた人、何人かいますね。では実際はどのくらいあるのか見てみたいと思います。ほとんどが簡単な漢字ですが、これだけたくさんあるわけです。私は、「口」に2本足してできる別の漢字と言っただけですが、先入観や固定観念に捉われて、「口」の外に文字を出すことに気付かなかった人や、曲線を使うことに気付かなかった人がいるかもしれません。私がここに田んぼの田を書いたことも影響しているでしょう。

つまり、私たちは、先入観や固定観念があると簡単なことでも見えなくなってしまったり、気付かなくなってしまうこともたくさんあるということです。

ですから、そのような先入観や固定観念を取り払っていろいろなものを見てみることが大事です。中には、自分にとって当たり前のことが相手にとってはそうでないことも、たくさんあるわけです。

しかし、その違いを間違っていると言ってしまったら、そこで終わってしまいます。間違っているのではなくて、お互いの違いと捉えることが必要です。そこで、「どうしてこの人はこういうふうに考えるのかな、こういうことを言うのかな」と考えてみる。そしてお互いに別の次元で解決策を考えてみることが大事なことです。

また、この違いというのは、往々にして乗り越えなければいけない壁のように、障がいのように思われてしまいがちなのですが、実はそうではないと思います。ちなみに今自分が書いた漢字をお隣同士、隣がいない方は3人で足してみてください。数ではなく種類です。同じものがあったらそれは一種類としてカウントします。足してみたら何種類になるか、見せ合って足してみてください。

さあ、どうでしょうか。足したら増えたという人。足したけど増えない人。同じものを書いたら増えないですよね。では、足したら減ったという人?それはいませんね。ここが大事なポイントです。

共生する、共に生きるというのはそういうことなのではないでしょうか。例えば3種類ずつ書いて、全く同じものを書いていたら「あ!同じだね!」という共感はあるかもしれませんが、そこで種類は増えないわけです。しかし、違うものを書いていたら必ずそれがプラスになり、最大で6種類になるわけです。そのように、違いを社会の豊かさにしていくということが、これからの社会の中では非常に大切なことではないかと思います。

私は、先ほどお話した多文化共生センターでボランティアから事務局長になり、その後外国人向けに情報提供をする会社をつくりました。その会社をつくったときに日本国籍を持つ人は私を含めて2人だけでした。あとはブラジル人、ペルー人、カナダ人、フィリピン人、スリランカ人もいました。

最初は「こんなことまで説明しなければいけないの」と思うこともありましたが、その後、ブラジル人のスタッフが家族の都合でブラジルに帰らなければいけなくなったので、ブラジルで情報を集めてサイトにアップロードしてもらうことにしました。すると、すぐにブラジルのニュースを見ることができて、それがすごく受けたのです。

「ペルー人のスタッフの弟がリマにいるからそこでも同じことができるよ」、「フィリピンに知り合いがいるからそこでもできるよ」ということになり、本当に小さな会社だったのですが、日本にいながら世界中のニュースをオンタイムで見られるというサービスを提供できるようになりました。

これが日本人のスタッフだけでしたら、現地に行ってスタッフを採用して大変な話だったと思います。もともと違いがあるからこそ、豊かになっていくということがたくさんあるのではないかと思います。そういうことがこれからの社会ではとても大事なことなのではないでしょうか。

(講演録7につづきます)


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